もういちど

いままで歩いたカミーノ道中でもういちど行くとしたら絶対にリエゴ・デ・アンボス〜ポンフェラ−ダ間を歩きたい。

リエゴ・デ・アンボスは小さな町だがカミーノの矢印がみつけられず迷っていた所、1人の老女に出会った。彼女は白装束に杖というお遍路さんスタイルで「巡礼道中町を抜ける場合は大抵街道沿いに真直ぐ進むもの」と教えてくれた。はたしてその通り。30分程街道沿いに歩くとやっとカミーノの順路を指し示す次の矢印がでてきた。
しばらく一緒に歩いたその老女の話も印象深い。
彼女の友人であるという画家のマルタ・カベサの話。
マルタは若くして成功した画家の1人であった。人々は彼女のヒットした画風(カラフルな強い色彩で陽気な)を求め、彼女はそれに答えて描き続けていた。描くぶんだけ作品は売れた。しかし何故か彼女の精神はだんたん疲れはじめ、とうとう彼女は人々の求める絵を描けない精神状態になってしまった。その時、彼女が思い付いた事はカミーノの巡礼だった。
巡礼の道々彼女は立ち止まって野の花々や木々、古びた教会を丁寧に描いた。そんな彼女の巡礼はとても時間がかかるものだった。巡礼が終わった時、彼女の画風はすっかり変わっていた。自然や宇宙に感謝する心を描くようになっていた。(その老女のお話では
彼女の巡礼中の画集が大きな書店などで手に入るとの事なのでぜひ探してみたいと思っている)話の最後に老女は言った。「サンチャゴ・デル・カミーノの巡礼が終わった時、本当のカミーノが始まる。そうでしょう?」

その老女とは山の中で別れた。険しい山の中、巡礼中に痛めた足の為自分は休み休み行きたい、人の迷惑になりたくない、人それぞれ自分のペースで歩くべきとの彼女の言葉によって私は彼女を置いて先きに行く事にしたのだ。下手に同情したら怒られてしまいそうな彼女の強い言い分だった。
それでもその老女の事は気にかかっていたのでその後、偶然にも道中何日か後で2回も再開する事ができた時は感激だった。しかし結局彼女の名前も知らないまま、今となってはもう2度と会う事はないかも知れない。カミーノとはそういう不思議な出会いと別れの所でもある。

さて話は前後するがその老女と別れ次の町ポンフェラ−ダへ向かう山中、不思議な風景を見た。
険しい山のなか、大きく甘く実った野生のモラ(ブルーベリー)を頬張りつつ進んで行くと、目の前に切り立った断崖絶壁の風景が広がった。その絶壁は木々に包まれ、不思議な凹凸を見せていた、なんとも不思議な断がいの凹凸。例えて言えば風景の写真を真ん中からハサミで切って少しずらしてからもう一度貼り合わせたような・・。あの辺の地形はいったいどうなっているのだろう?3D眼鏡をかけて観る映画のようにどうも不自然な立体感。ずれた地形からふつふつと湧き出るようなエネルギー感に強烈に引き込まれるのを感じる。しばらくその強烈な風景から目を離す事ができなくなってしまった。いまでもどういう地形だったのかどういう遠近感だったのか分からない。すぐ近くにいた他の巡礼者も私と同じ方角を凝視して立ち止まっていたのでやはり誰しも何か不思議な感じに捕われるのだな、と思った。

リエゴ・デ・アンボス〜ポンフェラ−ダ間は老女との出会い、そしてあの風景と巡礼中でも特別に印象深い区間である。そしてもう一度歩いてあの断崖景色をもう一度見てみたいと思うのだ。